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2015-02-07 15:56    ルイヴィトンタイガ手帳
 焼香がはじまり、嗣《し》法《ほう》師《し》への報恩の香である嗣法香が行われた。むかし禅宗が慣例にとらわれず、個人の省悟の系譜を何よりも重んじた時代には、師が弟子《でし》を決めるのではなく、むしろ弟子が師を選んだのである。弟子は最初に業を受けた師のみならず、諸方の師から印可を受けるが、その中で心から法を嗣《つ》ぐべき師の名を、嗣法香の折の法語で公《おおや》けにするのであった。  この晴れの焼香の儀式を見ながら、もし私が鹿苑寺を嗣いで、このような嗣香にたずさわるとき、慣例どおり老師の名を告げるだろうかと思い迷った。七百年の慣例をやぶって、私は別の名を告げるかもしれなかった。早春の午後の方丈の冷ややかさ、立ちこめる五種香のかおり、三《みつ》具《ぐ》足《そく》の奥にきらめく瓔珞《ようらく》や本尊の背をかこむきらびやかな光背のさま、居並ぶ僧たちの袈裟《けさ》の色彩、……もしいつの日か私がそこで嗣法の香を焚《た》けば、と私は夢想した。新命の住持の姿にわが姿を思い描いた。  ……そのときこそ、私は早春の凜烈《りんれつ》な大気に鼓舞されて、世にも晴れやかな裏切りでこの慣習を踏みにじるだろう。座に列《つら》なる僧は、おどろきのあまり口もきけず、怒りのために蒼《あお》ざめるだろう。私は老師の名を口にしようとしない。私は別の名を言う。……別の名を? しかし私の本当の省悟の師は誰だろう。本当の嗣法の師は誰だろう。私は口ごもる。その別の名は、吃音に阻《はば》まれて容易に出ない。私は吃《ども》るだろう。吃りながら、その別の名を、「美」と言いかけたり、「虚無」と言いかけたりするだろう。すると満座の笑いが起り、笑いの中に、私はぶざまに立ちすくむだろう。……  ——急に夢想はさめた。老師のするべき事があって、私の侍僧としての助けが要った。こうした席に列なる侍僧にとっては本来誇らしいことなのだが、鹿苑寺住職は当日の来賓の上首であった。上首は嗣香がおわると白槌《びゃくつい》という槌《つち》を打って、新命の住持が贋《がん》浮図《ふと》すなわち贋《にせ》坊主ではないことを証明するのである。  老師は称《とな》えた。 「法筵竜象衆《ほうえんりゅうしょうしゅう》  当観《とうかん》第一義」と。  そして音高く白槌を打った。方丈にひびきわたるその槌音が、私に又もや、老師の持っている権力のあらたかさを思い知らせた。  私はいつまでつづくか知れぬ老師の無言の放任に耐えなかった。私に何らかの人間的な感情があれば、それに対応する感情を相手から期待していけないという法はない。愛であれ憎しみであれ。  折ある毎に老師の顔色を伺うのが、私の情ない習慣になったが、そこには特別の感情は何一つ浮んで来なかった。その無表情は冷やかさですらなかった。もしその無表情が侮《ぶ》蔑《べつ》を意味しているとしても、この侮蔑は私個人に向けられたものではなく、もっと普遍的なもの、たとえば人間性一般とかさまざまな抽象概念とかに向けられたものと同じであった。  私はそのころから、強《し》いて老師の動物的な頭の恰好《かっこう》や、肉体的なみっともなさを思い浮べることにしていた。彼の排便の姿を想像し、更には、あの銹朱《さびしゅ》のコートの女と寝ている姿態を想像した。彼の無表情がほどけ、快感にだらけた顔が笑いとも苦痛ともつかぬ表情をうかべるところを空想したのである。  つやつやした柔らかい肉が、同じようにつやつやして柔らかい女の肉と融《と》け合って、ほとんど見わけのつかなくなる有様。老師の腹のふくらみが、女のふくらんだ腹と押し合う有様。……しかしふしぎなことに、どんなに想像を逞《たく》ましくしても、老師の無表情はただちに排便や性交の動物的な表情につながってゆき、その間を埋めるものがなかった。日常のこまかい感情の色合が虹《にじ》のようにその間をつなぐのではなくて、一つは一つに、極端から極端へと変貌《へんぼう》した。わずかにその間をつなぐもの、わずかに手がかりを与えてくれるものと云っては、あの一瞬の可《か》成卑《なりいや》しい叱咤、「馬鹿者! わしをつける気か」があるばかりであった。  思いあぐね、待ちあぐねた末、私はただ一つ老師の憎悪の顔をはっきりつかみたいという、抜きがたい欲求の虜《とりこ》になった。その結果思いついた次のような術策は、気違いじみてもおり、子供っぽくもあり、第一明らかに私に不利をもたらすものであったが、私はもう自分を制することができなかった。そんな悪《いた》戯《ずら》が、老師の誤解を進んで裏書することになるという不利をさえ、かえりみなかったのである。  学校へ行って、柏木に店の場所と名をきいた。柏木は理由もたずねずに教えてくれた。その日早速《さっそく》その店へゆき、祇《ぎ》園《おん》の名《めい》妓《ぎ》の葉書大の写真の数々を私は見た。  人工的な化粧の女たちの顔は、はじめは等しなみに見えたけれど、やがてその中から微妙な性格の濃淡がうかんで来、白粉《おしろい》と臙脂《べに》の同じ仮面を透かして、暗さや明るさや、すばしこい知恵や美しい愚かさや、不機嫌やとめどのない陽気さや、不幸や仕合せや、それら多様な色調が躍如として来た。ようやく私は求める一枚に行き当った。その写真は、店の明るすぎる電燈のおかげで、光沢紙のおもてに反射を閃《ひら》めかせ、危うく見のがされそうになったのだが、私の手の中で反射が納まると、銹朱のコートの女の顔がそこに現われた。 「これを下さい」  と店の人に私は言った。